クリエイターを愛するオタクのお話 冴えない彼女の育て方 Fine感想(ネタバレあり)
劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」予告編 冴えカノが完全新作でついにシリーズ完結へ!
さえかの劇場版を川口MOVIXで見てきた。モール映画館を8000年ぶりに訪れたが、なんかこう、やはりモールは中流民の聖地だなあというのを感じた。家族の考え方に対してガバガバ(多様性が認められてきた)になってきた現代社会のゆるふわ感に感謝した。
劇場版は主人公の倫也くんの所属するサークルが『冴えない彼女の育て方』というADVゲーム(オブラートに包んだ表現)を無事世に送り出すまでの流れを描いている。お話は
・倫也くんと加藤さんが付き合い始める。
・詩羽先輩と英梨々さんのピンチを倫也くんが支援する(自サークルおよび加藤さんを放っておいて)
・色々揉めたものの、倫也くんの支援で詩羽先輩たちは危機を乗り越える。今度は逆に、詩羽先輩と英梨々さんの倫也くんのサークルを支援する。
・詩羽先輩と英梨々は倫也くんが加藤さんと付き合い始めたことを受け入れて前に進んでいくことを決意する。
・エピローグで、ゲーム会社の経営者として大成した倫也くんが、かつての仲間たちを集めてゲームを作ることが決まる。
という感じのストーリーラインになっている。
作品として描きたかったこととしては、まずは①倫也くんと加藤さんのイチャイチャしているところと、あとは、②サブヒロインが現実を受け入れ前に進んでいくところを見せる、という感じだろうか。その試みは結構成立していたんではないかと思う。
制作しているゲームのシナリオを経由して登場人物たちの関係性が移り変わってゆくのはなんとも奥ゆかしい演出だし、この作品ならではなのでおもしろい。加藤さんに対するメール文の名前だけ置き換えてエロゲのテキストにしちゃうところなど、演出的なおもしろさはすごくある。詩羽先輩や英梨々たちが「ルート」などのエロゲ語彙を使って自らの恋愛を語ってしまうのも奇っ怪さと奥ゆかしさが両立していて好みの描き方だ。倫也くんと加藤さんのイチャイチャも、基本的にはゲームの参考、という体で進んでいくのでいじらしさがある。
劇場版を見てよかったところというか、もう一つ気が付かされたところは、やはり「さえかの」はクリエイター愛の物語なのだよなあ、というところだ。主人公になんの専門性もないじゃないか、というのはこの作品に対するツッコミとしてよくあると思う。ただ実際は管理的なスキルは結構な専門性なので、倫也くんのプロマネ的専門性みたいな方向性を強調すれば普通の成長物語としておさまったような気もしている。しかし実際そういう役割はあまり強調されておらず、あくまで倫也くんは、クリエイターを信じる人間として描かれる。そういうのが最高潮に達するのが、倫也くんが詩羽先輩と英梨々を助けにいくろころだ。ここは作劇の仕方としては全く褒められたものではないものの(脈絡のない高坂さんの病気と、倫也くんが情熱で企業を説得、というギミックで状況を動かすのは作劇としてはお粗末だろう)、私は個人的には結構納得できる流れだった。この作品におけるクリエイターVS何者でもない消費者みたいな枠組み回帰を感じたからである。。あくまで非クリエイターとしての倫也くんだからこそできてしまうことだったんだろうなと思った。
各ヒロイン、特にサブヒロインがめっちゃ魅力的なので、もうちょっと若ければハマれた作品だろうと思った。ちなみに、私はリベラル派なので(スタッフの笑い声)結構家事労働強調されていて「うぉおお」ってなったのだが、この作品ってベグデルテスト突破するのか結構微妙でもにょった。基本詩羽先輩と英梨々が二人で商業作品の話するシーンはありそうで実はほぼ無いような気がしている。最後詩羽先輩と英梨々が坂をのぼっていくシーンは辛うじて通るか。。。? でもやっぱり倫也くんの話といえばそうだしなあ……クリエイターとしてのキャラクター同士の掛け合いはさえかのですら出すのは案外難しいんだなと思った。