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実験室に彼女を連れ込む大学教授は"unethical"では?『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』感想


『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』予告編。人はどこまで残酷になれるのか…

 

 新文芸坐で。半券で見れると経済的に大分楽である。まあ帰ってきたなんとかは原作読んだからいいかな、とかなんとか。

 

 とりあえず本作品は『ハンナ・アーレント』に大分近い作風である。ナチス文脈とかアイヒマン裁判どうこう以前に、強烈なリア充映画であるという点において、であるが。まあ言うまでもないがちょっと救いようがないほど不愉快だったぜ……。

 まあなんだ、ナチスは非リアコンテンツなので(適当)、やはり非リア=ナチス枢軸と戦うにはリア充でなくてはならないんだな……と思った。例えばいかにも非リア臭のする私が「ナチス云々」とか言い出すと「うわ、キモッ」となるだけだが、リア充大学教員(アーレントミルグラムなど、ユダヤ系が多いな?(まって、こんなこと言ってるけど僕はアンタイセメティックな人間じゃないんだ!!!))が「ナチズムとは!」って上段に構えると皆平伏するという。やはり大学教員のちからはスゴイ。でもアーレントミルグラム服従や悪に関する議論は2017年のサイレン(聞こえるかい? 僕には聞こえる……)の前ではほとんど反駁されているわけですよね。正直、実証的な水準で「ミルグラム実験」とか「悪の凡庸さ」とか言い出す連中は相当ださいんですよね、たしか……。いや、そんなことはどうでもいい! 映画の話をしろ!

 いちばんアレだったのは、ミルグラム実験中、彼はガールフレンドと一緒に一般市民の道徳的堕落を眺めていた! という衝撃の事実である。演出なのか事実なのか知らないが、事実だったら相当酷い話だ。ミルグラムはカノジョと一緒にマジックミラーの裏側に隠れながら、女の子と手を握り合って、善良なアメリカ市民たちが「ホロコーストにも匹敵する重大な蛮行」にコミットするのを眺めていたらしい。いや……一般人でしかないガールフレンドに研究の様子を見せるなよ。倫理のかけらもあったもんじゃないよ。そしてそんだけ尊大なことをやっといて「プリンストンは傲慢でクソ」とか批判を始めるんだもんな。もう我慢できませんでしたよ。俺も彼女と一緒にアホな一般人が道徳的に堕落していくところを見たいわ!! 自分たちだけは絶対に汚れないという感覚に浸りながらな!! ちょう羨ましいですよほんと。

 まあ、学史的な要素は普通に面白かった。ミルグラムはこうしてみると社会学の面白げな実験や理論と関わりまくってるなーと思う。あと何気に、60年代は「社会関係」が専門だと名乗っていたミルグラムが(しかも彼女から???とされる)、70年代後半くらいから「社会心理学です」とドヤ顔してしかもテレビとか出始めるあたり、社会学の露出度が上がっていった時代を描いた映画でもあるなと思った。ケネディの暗殺が取り上げられたりしているあたりとか、背景に映る若者の服装とかから、微妙にアメリカ史紹介要素もあったりするのねという気もした。背景がいきなりモノクロ写真になる演出とかも学問やアメリカ社会を描く上での通史的な部分に対して結構貢献していたと思われ、そういう意味では単なる批評家好み的演出には堕しておらずよかったんではないかと思った。

 あとは私が好きな役者が出てたのでまあそれだけで大分許せたかなという気もした。新スタートレックチェコフ役をやってるアントン・イェルチンの渋い感じ好きだし、あとは何より正妻役のウィノナ・ライダーですよ! 作中でもフェミニストにキレられてたけど、ウィノナ・ライダーの醸し出す「インテリ男の側にいるいい女感」ですよね、これがすごい。マジで死ねと思うが、ウィノナ・ライダーがやるとなんとなく正当化されてしまうから不思議だ。いやね、ウィノナ・ライダーほんと好きなんすよ(謎のオチ)。