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ちゃんとしたクリニックに行けば? 『JUNO/ジュノ』感想(ネタバレあり)

 

JUNO/ジュノ (字幕版)

JUNO/ジュノ (字幕版)

 

 

あらすじ

 高校生の女の子ジュノが妊娠して、一度は中絶を決意するが翻意して、通学と妊娠出産を両立させ、無事に我が子を養子に出すというお話。

 

脚本がかなりダメ

 かなりとっちらかっている脚本である。何が一番まずいかというと、ジュノが中絶を辞めるという重要な意思決定を孤立状態で下さざるをえない状況がかなり恣意的に作り上げられているという点だろう。まずいちばん違和感があるのが、ジュノが中絶を辞める描写。この映画はなぜか、「ある特定の中絶クリニックが嫌*1」→「中絶が嫌」という飛躍をやるのだが、ここはどう考えてもおかしい。普通、「ある特定の中絶クリニックが嫌」の次は、「もっといい中絶クリニックを探そう」ではないだろうか? もちろん、ジュノが家族からネグレクトされているとか、友達がいないとか、彼女が孤立状態にあるという前提条件があれば、ああいう投げやりな行動を取ることにも一定の納得感がなくもないが、ジュノの家族や親友はありえないほど善良な人々である。そもそもジュノが中絶したかったのなら、彼女が「劣悪なクリニック」か「出産」かの二択状態に追い込まれる必然性はかなり薄く、安価なクリニックが怖いからちゃんとした病院に行きたいということで、例えばお母さんあたりのサポートを受け入れる、というのが自然ではないだろうか。ただこの映画は最初に、ジュノと両親がギクシャクしているかのような印象を視聴者に与えておく。例えば序盤の食事シーンでは、父親はそっけないし、継母との関係もひょっとしたら悪いのかも? という印象を受ける。こういった描写でジュノと両親(特に母親)の協力という可能性をちゃんと潰しておいて、つまりはジュノを一種の孤立状態に置いておいて、その上で、出産路線が確定してから「家族はジュノをサポートするのです!!」と一転家族による支援を描き始めるというこの映画のやり方は、端的にいって邪悪だと思う。女性支援団体の運営する中絶クリニックの描き方といい、継母とジュノの関係といい、このテーマなのに女性同士の連帯という筋を都合よく悪用しているように思える。こういうのを好きな人が家で見る分にはいい映画だろうが、皆で絶賛するタイプの映画ではないだろう。 

 また、男性の扱いに関しては完全に意味不明である。ジュノの彼氏にしろヴァネッサの夫にしろ、こいつらは恋人と一緒になってるのに童貞性を引きずっているのでだいぶ酷い人たちである。ジュノ彼は恋人が妊娠してるのに「え、俺たち付き合ってたよね」みたいな水準でグズグズし始めるし、ヴェネッサ夫は家庭があるのにロマン主義が矯正されていないちょっとズルいキャラだし。なんというか、妊娠や結婚という先立つ事実に直面しながらも、それでも童貞的葛藤を維持する人々というのは、相当愚劣で無責任な連中である。はっきり言っておくが、童貞性は孤独な童貞たちのものであって、恋人とセックスしたり結婚相手を裏切ったりする連中のためのものでは断じてない。この映画はそういう意味で童貞のこともバカにしてる映画でもあるので、ちゃんと批判しておかないといけない。

 

でもエレン・ペイジだから部分的に許されてる

 しかし、この映画はなんとか見れる出来にはなっている。なぜかというと、やはりエレン・ペイジだろう。エレン・ペイジはこういう、なんか投げやりなファンキー過激少女の役があまりにも合いすぎるので、その圧倒的な納得感、正当化力によってなんとなく酷い描写が見過ごされてしまっている感がある。エレン・ペイジすき*2。でもエレン・ペイジを真に活かしたいなら、とりあえず彼氏を殺して、そんでもってもっとヴェネッサとの筋を押し出せばよかったんじゃねーのと思う。というか、この映画はジュノとヴェネッサが男に裏切られるけどお互い支え合うみたいな話にしとけば単なるプロライフ宣伝映画にならずにすんだよね。さすがのエレン・ペイジ力をもってしても、やはり最後「彼が好き~~」とか言い出すのがマジで意味わからんかったからな……。

*1:この中絶クリニックの描き方もだいぶ酷いが。というか、中絶クリニックなんてたいていこんな場所だよっていうのが密輸されててだいぶクソだろう。ちゃんとした中絶クリニックは全米にたくさんあります!!

*2:この映画で唯一それなとなったのは、「男子は変な女の子が好き」という話ですよ。それな。変な女の子は「いや私モテなかったぞ」と言うんだろうが、密かなファンが結構いたと思うんですよね、ええ。