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普通に面白いけど……悲しいお話。「ドント・ブリーズ」感想(ネタバレあり)

ドントブリーズを見てきた。

 


「ドント・ブリーズ」公式予告編第1弾非公式日本語字幕

 

 うーん。宇多丸ラジオとかで絶賛されてるほどか……? という感じはしたが、まあ普通に面白くはあった。

 盲目の老人が暮らす家に、悪ガキ三人(崩壊家庭出身のヒロイン、DQN、ボンボン)が侵入して金を盗もうとする。しかし盲目の老人はイラク戦争で戦傷した退役兵で、悪ガキたちを撃退していく……という話。最後にもうひとひねりもあり、たしかに全体としてみれば楽しい。序盤のカメラワークも非常に洗練されており、必要な情報を何気なく効率的に、そして緊張感を維持させながら視聴者に伝えていると思う。個人的にはここで成功していたおかげでなんとか「もった」映画だと思う。後半からの展開は馬鹿みたいに粗いのだけども、序盤の投資が生きてるおかげで緊張感がちゃんと維持されていた感。

 犬が来るシーンから始まって、個人的にはビビりまくったので、まあホラー(?)映画としては楽しめたのではないか? ただちょっと説明が欲しいところも何点かあった。

 以下、箇条書き。

・家主が最初の睡眠薬を回避できたのはなぜ? ここ解説あるもんだと思って見てたけど結局なにもなかった。多分カットされたんだろうが……うーん。序盤のカメラまわしによる紹介が非常に洗練されていた分、ここの説明無かったのは映画のクオリティを落としてしまっているような。

・去勢っぽい一撃が実はDQNに対するものでした……というところはちょっと無理がないか。というのも、タイトルからは「ブリーズ(息)」、つまりは音探知が盲人家主にとっての索敵手段になってるみたいな印象を受けるが、家主はあきらかに「臭い」でも索敵してるので、DQNとボンボンを嗅ぎ分けるくらいのことは絶対にできるはず。また、この家主ほど用心深い人物であれば、「敵を全滅させたと思ったら実は他にもいた」的なミスを二回やらかすのはありえないはずだ。だからボンボンが生き残るのが本当に納得感薄い。なんというか、「盲目だけどこいつ最強」的な描写を全面に押し出す一方、トリック的な部分では「盲目だから見えてませんでした」を使って話を作るのはちょっと個人的にズルいんじゃないのと思った。まあ面白くはあるんだが……。

・なんか「私はレイピストではない」発言に対して首肯しちゃう男性がいるとか思ってる人がいるらしいが、あれは誰がどうみてもただのレイプである。ただ思ったのは、なぜ金持ちの娘の口は縛っていたのに、侵入してきたヒロインの口を縛らなかったのかということ。これは明らかに、盲目の家主がコミュニケーションを志向していたことの現れである。それが単なる加虐心からくるものなのか、それとも彼なりに人との交わりを求めた結果なのかは知らないが、何かしらコミュニケーションをしようとした意図は確実にある。つまり家主は「トライしたけど失敗した」タイプのコミュ障であるから、余計つらい。精子を解凍していた時の発言から見ても、家主は戦争と娘の喪失という体験を通して信仰(象徴的にいえば、道徳とか倫理といったものすべて)を失ってしまった人なわけである。あきらかに「元々普通の人だったのに、ああなってしまった」人である。ポスト道徳の存在である家主をナイーブな判断で安易に攻撃して悦に入るのはこの映画の見方としてあまりに浅いとしかいいようがない。我々は誰でも盲目の老人になりうるという教訓を忘れてはいけない。

・最後の脱出の直前シーン、家主がボンボンを射殺するわけだが……。なぜ地下から這い上がってこれたのだろうか。もし手を切断とかなら分かるのだが。まあ、そうするとあまりにも陳腐だけれども。

・トランクはもっとうまく使えたんでは。なんというか、「てんとう虫=解放」みたいな象徴は最初から最後まで一貫して強調してるけど、なんかあからさまでちょっとさめた……。序盤にわざわざ口で「トランクは一度閉じ込められたら出てこれない場所」とか説明するシーンを入れるなら、犬がバウバウ言いながら出てきちゃダメだろ……と思った。いや、出てくるからこそ効果的とも言えるが、しかし事実上のラスボスが犬というのもなんというかねえ。まあ最終的には犬の監禁に成功するのでまあいいのかもしれんが……

・あと最後、女性の扱いとして、アメリカだとあのヒロインを殺せないのは分かるんだが、「お前を追っているぞ……」的な圧力をかける形で終わらせるのは殺すのより酷なんじゃないかと思った。あれは続編のアピールでもなんでもなくて、単に「オンナが犯罪!? スイッチ入った! 絶対に追求する!!!!!」的なセクシズムの落とし所だと思うんですよ。だからなんというか、生存させることによって差別心を温存するのに貢献するタイプのオチだったと思われ、個人的にはヒロインも殺しといた方がいいんじゃないかな~~~とは思ったよね。

・スタッフロールで盲目の家主が「The Blind Man」の役名でクレジットされてて、まじでつらかった。つらみの極み。

 まあ、全体として悲しい映画だったな。こういうのの前では童貞はマジで無力だ。