姫が誕生する物語 ローグ・ワン感想【ネタバレあり】


「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」予告 希望編


 ローグワン見てきた。脚本とか、特に前半のキャラ紹介に関していうと映画としてのクオリティは高くはないのだが、最後の最後で唐突に涙腺が崩壊してしまった。なんかわからんけど気がついたら号泣してた。

 この映画、理不尽に降りかかってくる個人的なつらみを、チームワークとラブラブ力によって自力救済する話である。その上で、自力救済の結果生まれたものを希望と呼び、それ対して積極的な価値、つまりみんなで共有できる価値を与えているという映画でもある。そして物語りを進める上で、極めて純度の高い姫ー取り巻き関係を用いており、童貞とも親和性が高い。つまりは殉死系救済映画の一歩先を行く、肯定力に満ち溢れた作品だと思う。

1あらすじ
 帝国の兵器開発者ゲイレンを父に持つジンは、反乱同盟軍から、生き別れの父が同盟軍との接触をはかろうとしているのを知らされる。ゲイレンは帝国軍の究極兵器であるデススターの開発責任者で、兵器の破壊方法を誰かに伝えようとしていたのだ。ゲイレンからのメッセージを受け取ったジンとその仲間-ローグ・ワン-は、デススターを破壊するために必要となる設計図を手に入れるため、帝国軍のデータセンターがある惑星スカリフへ向かうのだ。

2ローグ・ワンメンバーとレイア姫との間にある距離感
 とにかく最後、レイア姫が登場するシーンのための映画だった。レイア姫、後姿だけなんだろうなーと思っていたのだが、予想を覆して顔出ししてくれたので、なんというかあの瞬間にすべての緊張が解けて泣いてしまった。絶望ではなく希望で泣けたのが本当によかった。
 で、レイア姫っていうのはやっぱり「姫」だなとなった。「ローグ・ワン」は完全に姫映画だと思う。*1とにかく姫性の物語においては、姫⇔取り巻きの距離感をどう描くかがすべてだと思うのだが、その点今作の描写はほとんど完璧だったのではないだろうか。

①姫と取り巻きの接点なんて無いんだよ!
 「ローグ・ワン」はまず登場人物からして、みんな地べたをはいずりまわるような連中である。つまり、姫との階層的距離が半端なく大きいのだ。強制労働施設で働くジン、失職中の聖地守護者ティルアートとベイズ(聖地は帝国軍によって占領されてる)。みんな、エリートとか王族とかじゃなくて、苦しむ平民である。そして個人的に一番ぐっと来たのは、キャシアンのキャラクターだ。この反乱軍所属の将校、かなり汚い仕事もやっている。スパイとか、暗殺とかね。命令で意に沿わないことをやらなきゃいけない人、現代にはたくさんいる。でもそういった組織圧力によって道徳的に追い詰められつつも、大儀、つまり自分が信じている価値のためにどうにかこうにかがんばってるキャシアン君、このぎりぎり感はすごく共感を誘うと思う。まとめると、ローグ・ワンのメンバー、実は姫と無縁なのである。ちょうど、サークルに入ってない大学生のように。

②ラブラブ力は自給自足のローグ・ワン!
 こんなデコボコメンバーからなる謎チーム、ローグ・ワンなのだが、このチーム内では実はいたるところでラブラブな関係が成立している。つまりローグ・ワンのメンバーは感情的な水準でも姫たるレイア姫との間にかなり距離がある。というか、親密さに関していえば、ローグ・ワンは完全に自給自足的な集団なのだ。たとえば不思議ちゃん枠のティルアートと、そのティルアートにつき従う仕事人のベイズ。この二人はすごく仲がよろしい。とくにベイズが「しょうがねえなあ~~」とかいいながらティルアートについていくのが可愛い。それにキャシアンとドロイドたるK-2SOの関係。これはフルメタとかにおける宗助とアルのそれに近い関係性で、普通は「ドロイドが人間性を獲得した~~」というところにピークを持ってくるような関係である。ただ今作においてドロイドのK-2SOはすでに人間性を獲得しているので(かわいい)、キャシアンとK-2Oの関係はいわばルート確定後のカップルみたいな没入感がある。端的にいえばラブラブである。K-2SOが弁慶よろしく、「敵をだますためとはいえ、はたいてごめんなさい」とかキャシアンに言ったりするのだが、かわいいのうとなる。AIキャラ特有のオフビート感がすばらしい。ビッグヒーロー6におけるベイマックスやタイタンフォール2におけるBT君に続き、K-2SOも登場して、最近は人間性を獲得したAI君が活躍していてうれしいね。まあただ、唯一ジンだけは明確に相手がいないのでアレなのだが、まあジンさんは父や養父と和解するからいいんじゃないですかね(ホモソ民並の感想)。あと最後キャシアンといい感じになるし(死ぬけどな)。
 さて、ここまでの議論をまとめると、つまりはこういうことである。①ローグ・ワンは地べたをはいずりまわる平民からなるメンバーであり、上流民のレイア姫とは階級的な接点は一切ない。そもそもメンバーとレイア姫の会話シーンすらなく、②ローグ・ワンのメンバーは親密な関係に飢えているわけではない。したがって、ローグ・ワンのメンバーは「AKBセンターの人はキリストを超えた!」的な水準でレイア姫に依存することは絶対にない。しかし、この距離感と乖離がありながらも、いや、この距離感があるおかげで、レイア姫は完璧な形でローグ・ワンメンバーにとっての姫となることができた。ここに「ローグ・ワン」という作品のすばらしさがある。

 

3、みんなの希望、みんなの姫、みんなのスターウォーズ
 「ローグ・ワン」という作品における姫の機能は、救済と見せかけつつ実は救済ではない。まずここがすごい。全滅エンドの物語において、普通姫ポジションの役割は意味もなく死んでいったメンバーたちに「意味があったんだよ〔にっこり〕」とやることではないか。だがレイア姫はそういうお姫様ではないし、ローグ・ワンのメンバーもそういう水準の取り巻きではないのですごくカッコイイ。しびれる。

①自ら勝ち取った「救済」
 そもそも、レイア姫の存在を意識して戦っているメンバーは一人もいない。大事なことは、メンバーは自分たちの手で自らのための救済をやり遂げているということだ。設計図を反乱同盟軍に届けるという目標を、とにもかくにも達成したことを自覚した上で、ローグ・ワンのメンバーは退場する。自分たちのやったことに対して「これは意味があったんだ」という承認は、この作品においては他者や神から与えられる何かではない。メンバーたちは自分たちで救済を勝ち取っている。
 もちろん全滅エンドはそれ自体悲惨なオチではあるのだが、しかしメンバーたちが自らの力で救済を勝ち取ったおかげで、この作品からは安っぽい絶望が完全に取り除かれている。よくあるような、絶望に対して姫ポジションのキャラクターが救済を与える話にはなっていない。そうじゃなくて、救済の問題を解決した後には、実は希望が残るんだよという話になっている。ここが最高だと思う。伝統的なストーリーって「認められさえすれば実益なくてもいいじゃん。人生は歓びだよね☆」みたいなメッセージが多いと思う。承認と救済が調達されましたね、はい終わり的な。だが、だからなんだという話なのだ。だんだんに。

②姫ー取り巻き関係の純化
 絶望が排除されていることによって、ローグ・ワンのメンバーとレイア姫の関係が純化されているのも興味深い。妙な話だが、姫-取り巻き関係の面白いところは、両者がお互いの存在を認識していなくても成立するところにあるわけで、「ローグ・ワン」はこのあたりの要素をうまく利用していると思う。もしメンバーとレイア姫が顔を合わせていたら、即座に「個人的忠誠」「個人的救済」「ワンチャン」「可能性」などのきな臭い要素が侵入して、全てを台無しにしてしまったはずだ。だが先述のとおり、ローグ・ワンのメンバーは姫との間に個人的な接点はなく、またそれぞれがラブラブ状態のお相手をちゃんと持っている。その意味で、取り巻きたるローグ・ワンと姫たるレイアは、ただ「帝国をぶち倒す」という一点のみでつながっている。この純化されたつながりのおかげで、ローグ・ワンメンバーのがんばりは、ただ「希望」という名の極めてキレイな、みんなのものという形を取って姫に継承してもらえたわけである。希望概念があまりにもキレイすぎるので、レイア姫がディスクを受け取る瞬間には、これは本当にみんなの、つまり俺の希望でもあるんだなあと素直に思えるわけで、文句なしの大傑作だと思う*2。絶望ではなく希望で泣ける日が来るとは思わなかった!! ありがとう!!

4、もろもろ

・これはしょうもない話だけど、スターウォーズサーガで、しかもディズニーによる買収後に作成されたスピンオフという、極めてきな臭い状況下における解答としても完璧な作品だったろうと思う。

・同盟艦隊がハイパースペースから出てくるシーンはやばい。「この距離感かああ

!!!」となる。

・リズ・アーメッド君いたね。脱走パイロット。あの自信なさげな雑魚男子キャラほんと好き。心から応援してる。どんどん映画でてくれ。

*1:私は以前、↓

 

zatumuiroiro.hatenadiary.jp

 

というエントリーで姫についてちょっと考えてみたのだが、私の理解では、姫とは「みなから愛されるが、決して誰のものにもならない存在」だった。前から問題意識として、「姫と取り巻きとの距離感って、なんか安心できるよな。あれなんなんだろうな」というのはあったのだが、「ローグ・ワン」という映画を見てより姫理解が深まったような気がする。

*2:なので、序盤の仲間紹介パートがチームの連帯意識よりもカップルのラブラブ感を押し出す演出になっているのには演出上の理由というか、トレードオフがあるんだとは思う。まあ、「ガーディアンズオブギャラクシー」的なスムーズなキャラ紹介って、カップリング紹介とは相容れないっすよ。カップルいたらチームの凝集性〔専門用語〕が下がるのは当然だろうっちゅう話ですわな